歯周病の本当の怖さは、虫歯と違い個々の歯の病気ではなく、多くの歯の病気が同時に進行する事と、虫歯のように痛むことがあまりなく、歯が抜けてしまうことにあります。歯が抜ける原因はいろいろありますが、その約半分が歯周病によるものと言われています。また歯周病は、日本では成人の約8割の方がかかっていると言われているとても身近な歯の病気です。歯が痛くなってから歯医者に行く・治療をするでは手遅れになりかねません。現に日本では、治療してある歯数が8.1本と世界でトップクラスにも関わらず、なんと喪失歯数と残存歯数は治療歯数0.1本のスリランカと同じレベルという興味深いデータもでています。(一人あたりの平均現在歯数(65~75歳)、日本:11.8本 スリランカ:11.5本)
歯周病も虫歯と同じ感染症です。歯周病は特殊な細菌により引き起こされています。その細菌を媒介するのがプラーク(歯垢)です。このプラークが歯周病になる最たる原因と言えるでしょう。しかし、他のリスクファクター(危険因子)がさらに加わることにより、よりいっそう歯周病にかかりやすくなったり、歯周病の進行が早くなったりします。それは下記に示すような全身的な事であったり、お口の中の事だけであったりします。
歯周病の症状の進行スピードは、個人によりかなりの差が表れます。歯周病菌は種類・数ともに様々です。この様々な歯周病菌に対する人の体の反応も人それぞれ異なることから、歯周病の進行の速さには個人差があると言えます。また進行するごとにその病状の進むスピードは早くなってしまいます。では健康な状態からどの様に病状が悪化し、歯周病が進行していくのか、順を追って解説していきましょう。
歯垢もついておらず健康な状態です。 歯と歯肉の境目に1~1.5mmくらいの溝が存在します。 これを歯肉溝(しにくこう)と呼びます。
歯と歯肉の境目に歯垢が付着していると、そこの歯肉が赤く腫れていきます。すると歯肉溝は深くなり細菌が増殖し、歯肉縁上に歯石が形成されます。
骨の破壊が起こっている状態です。以前と比べ歯肉がやせ、その結果、知覚過敏をおこしてしまう場合もあります。歯磨きが難しくなります。
味覚に影響を及ぼします。また、噛むと痛くて物が噛めないようになってしまいます。その後、ほどなくして歯は抜けてしまいます。
近年、歯周病と全身疾患の密接な関係が明らかにされてきました。歯周病の原因菌は、口から体内に侵入することで、様々な疾患を引き起こします。体内に細菌が侵入する経路のほとんどは、口を通して起こるのです。口の中を清潔に保ち、歯周病を治療・予防することは、全身疾患の予防にも繋がります。
心疾患は日本における3大死亡原因の1つに挙げられる全身疾患です。 歯周病菌は歯周ポケットから血管内に入り、血流に乗って心臓や他の臓器に感染することがわかっています。 心臓の弁膜や内膜に発症する「細菌性心内膜炎」のほとんどは、口腔内の細菌が原因です。また、冠動脈に感染すると原因菌が産生する炎症性物質や毒素が血栓を作り、動脈硬化を進行させる可能性が指摘されています。血圧やコレステロール、中性脂肪の高い方は心疾患のリスクを少しでも軽減するために、口腔ケアの重要性を理解していただく必要があります。
糖尿病と歯周病の関係は特に密接です。糖尿病を治療することで歯周病が改善しますが、逆に歯周病を治療することで糖尿病が改善するとも言われています。
糖尿病の方は、そうでない方よりも細菌感染しやすくなったり、創傷治癒が遅くなったりすることもよく知られています。
これは、糖尿病に伴う好中球の機能低下、微小血管の障害、コラーゲンの代謝障害が歯周病の重篤度に深く関係しているのではないかという見方が高いようです。
高齢者が亡くなる原因として、多く挙げられるのが肺炎です。その中でも、食べ物や唾液が誤って肺に入っておこる「誤嚥性肺炎」で亡くなられる方が多くいらっしゃいます。
これにも歯周病菌が原因のひとつになっていると言われ、歯周病があると歯肉からの出血や膿が出るため、口の中の様々な細菌が増殖しやすい環境となります。「むせる」という喉の反射で食べ物が肺に入るのを防いでいますが、高齢者や要介護者などの場合「むせる」という喉の反射が起こらず、周囲の人が気付かないまま誤嚥していることがあります。ですから口の中を清潔にし、歯周病を予防することが、肺炎を防ぎ、命を救うことにも繋がるのです。
重度の歯周病にかかった母親は、早産や低体重児出産のリスクが高いことが報告されています。これは、歯周病にかかった歯周組織が作り出す「炎症物質」が血液中に入り込み、子宮の収縮に関係しているためだと考えられています。また、歯周病菌の毒素が歯周ポケットから血液中に入り込むことで、血液の「炎症物質」を増やすことも関係していると考えられています。
またその一方で、妊娠中は歯周病が悪化しやすいという事実があります。つわりで食事のリズムが不規則になったり、歯みがきが不十分になったりする上に、胎盤で作られるホルモンが歯周病菌を増殖しやすくするため、歯ぐきに炎症が強く現れるようになるからです。つまり、歯周病は早産や低体重児出産のリスクが高まるにもかかわらず、妊娠中は歯周病にかかりやすいという問題があるのです。
残存歯数が少ない高齢者ほど、記憶をつかさどる大脳の海馬付近の容積が減少していることが、東北大学の医学部と歯学部の共同研究で判明されました。これまでもアルツハイマー病にかかると海馬が萎縮することは解明されていましたが、この共同研究によって、自分の歯を残す努力が認知症の予防に繋がることが証明されたのです。
また、成長期にしっかりと噛んで食事をすることで、脳細胞が活性化され、記憶力や学習能力が向上する、ということも明らかになりました。さらにしっかりと噛んで食べることには、発ガン性物質の作用を弱めたり、リラックスを促す脳内物質を分泌させ、ストレスを和らげる効果もあるのです。